ケトルから湯が出ていく速さを、1秒あたりのグラム数で表したものです。150g の湯を30秒かけて注いだなら、およそ5g/s。家庭ではまず測られず、競技会の選手は必ず練習で作り込む変数です。
注湯速度は抽出時間とは別ものです。抽出時間は全体にかかった時間で、その大半は粉床が決めます。注湯速度は あなたが 決める部分、つまり粉床に湯を手渡す速さです。
カップが変わる理由
速く注ぐと、二つのことが同時に起きて、しかも同じ方向に働きます。ひとつは粉床の上の水位が上がること。上から押す力が増え、落ちが速くなります。もうひとつは、湯がスラリーに与えるエネルギーが増えること。これが 撹拌 で、湯と粉の接触が増え、抽出が速く進みます。
つまり速い注湯は、1秒あたりの抽出量を増やす代わりに、粉床に与える時間そのものを削ります。遅い注湯はその逆で、穏やかで、長い。粉量も挽き目も比率も湯温も同じ二杯が、この一点だけでかなり離れた味に着地します。
正解はあなたの数字
正しい注湯速度というものはありません。ペーパードリップのレシピはたいてい3〜7g/s のあたりに落ち着きます。数字を明記しているレシピの多くは競技用のルーティンで、選手が再現できるようになるまで注ぎを反復した結果です。
家で効くのは、自分で選んだ速さを守ることです。同じレシピなのに日によって味が違い、挽き目も粉量も湯も同じなら、犯人はたいてい注湯速度です。誰も見ていないので、気づかれないまま静かにずれていきます。
体で覚える方法
ケトルをスケールに載せ、カップに向けて10秒注いでみてください。出たグラム数を10で割れば、それがあなたの速さです。たいていの人は驚きます。「ゆっくり丁寧に」注いだつもりが8g/s だったりしますし、本当に遅い注湯は、最初はもどかしいほど辛抱が要ります。
ここでグースネックのケトルが大きく効きます。精密だからではなく、注ぎ口が細いと遅い湯線が 成立する からです。口の広いやかんでは、8g/s を下回った途端に湯がぼたぼた途切れてしまいます。