普遍的なレシピではなく、手法を俯瞰する地図
『ドリップコーヒーの最新技術』は、その名のとおりドリップコーヒーにおける当時の最新技術を扱った本である。電子版には英語の副題 Pour-over Coffee Brewing Professional Techniques も付されている。2012年に刊行された日本のムックであり、中心にあるのは具体的な問いだ。それぞれ独自の器具、湯の流し方、伝統を持つ店で、プロはどのようにドリップコーヒーを淹れていたのか。
旭屋出版の書誌ページは、23店の喫茶店を取り上げ、抽出工程の写真を豊富に掲載していると紹介する。この23という数が、本書の性格を決定づけている。中心となる一つの手法を提示し、ほかをその変形として扱うのではない。ここで観察されるのは、それぞれに完結した仕事の体系である。湯の注ぎ方も、フィルター、挽き目、粉の層の整え方、流量、そして各店が目指す一杯と組み合わせて初めて意味を持つ。
したがって、本書は比較資料として読むのがよい。文脈から切り離されたレシピは、容易に中身のない所作の再現へと変わってしまう。本書を通じて検討できるのは、ある手法のなかで一貫して保たれる判断は何か、素材やフィルターの形状が変わったときに何が変化するのか、という点である。
日本の喫茶店23店
選ばれた店には、歴史ある喫茶店、地域チェーン、小規模な自家焙煎店が含まれる。カフェ・バッハ、松屋コーヒー本店、SAZA COFFEE 本店、HORIGUCHI COFFEE、珈琲だけの店 カフェ・ド・ランブル、豆香洞コーヒー、CIRCUS COFFEE、CAFE FACON、自家焙煎珈琲 蘭館、COFFEE WINDYなどである。全店の一覧は出版社の目次で、より詳しいページ構成は台湾版の記録で確認できる。
この一覧の意義は、著名店が含まれていることだけではない。来歴も規模も顧客層も異なる店同士を比較できる点にある。各店の紹介は、抽出の一般原則を独自の手順へ落とし込む方法を示している。
掲載店側の資料には、この企画が具体的な現場に根差していたことを裏づけるものもある。COFFEE WINDYは98ページから102ページに掲載されたことを記録し、2012年7月2日にその知らせを公開している。小さくとも有用な証拠である。各店の記事は、外部から一般例として書かれたものではなく、実在する店を訪れ、その時点での実践に結びついた取材だったことが分かる。
それぞれの技術を担当した個々のバリスタについて、組織的かつ完全な一覧は確認できていない。そのためGotaの書誌情報では、電子版がそのように記載している場合、編集責任を旭屋出版編集部に帰しているが、ブログから拾った人名を印刷版の公式著者に置き換えることはしていない。
ペーパー、金属、ネル
公式目次では、全体のかなりの部分がフィルターの種類ごとに構成されている。ペーパーフィルターにはKalita、コーノ、三洋産業、HARIO、バネットフレーム、松屋式、Melitta、ドーナツドリッパーが登場する。さらに、金属フィルターと、ネルまたはフランネルによる抽出も収録されている。
扱う素材の幅広さは、本書のとりわけ有用な特徴の一つである。同じフィルター系統のなかで手法を比べれば、流れや注ぎ方の違いを観察できる。ペーパー、金属、布を比較すれば、成分の保持、抵抗、手入れ、質感まで考えざるを得ない。器具は一覧に並ぶ単なるブランド名ではなく、抽出体系の一部として見えてくる。
台湾版にはこのほか、1杯用ドリップバッグ、ペーパードリップの変遷、マシン、器具ガイドに関する章も記録されている。日本語の原版に対しては二次資料であるため、全体構成を理解するには適しているが、初版の正確なページ数をそれだけで確定する根拠にはならない。
本書を根拠に、あるフィルターの系統がほかより優れていると断定すべきではない。本書が記録しているのは、プロによる複数の解決策である。最も実りある読み方は、それぞれの手順がどのような問題を解こうとしているのか、そのためにどのような妥協を受け入れているのかを問うことだ。
2012年の日本を写した一枚
刊行時の背景は重要である。Specialty Coffee Association of Japanは2003年に組織を再編しており、2012年までには、研修、競技会、専門家同士の交流を支える安定した基盤が日本に築かれていた。旭屋出版自身も「pour-over」という語を使い、日本のハンドドリップの伝統を、拡大しつつあった国際的な議論のなかに位置づけている。
本書は、今日の日本のコーヒーに対する世界的なイメージを左右するいくつかの出来事よりも前に刊行された。Blue Bottleが日本初のカフェを開いたのは2015年である。粕谷哲の4:6メソッドがWorld Brewers Cupに登場したのは2016年だった。いずれも本書が当初見渡していた範囲には含まれず、これらを過去に投影すれば資料の姿を歪めることになる。
この時間的な隔たりこそ、本書の長所の一つである。世界的なソーシャルメディア文化が多くの手法を短い図解や再現可能なレシピへ単純化する以前、日本の専門誌がどの店、フィルター、所作を重要とみなしていたかを観察できる。
現代の読者が学べること
第一の教訓は方法論に関するものだ。技術を、それが開発された器具から切り離すことはできない。挽き目、フィルター、粉量、粉の層の整え方を再現せずに注湯速度だけをまねても、同じ体系を再現したことにはならない。
第二に、プロの手法に幅があることは、判断基準が存在しないことを意味しない。二つの喫茶店が正反対のリズムで作業していても、それぞれの器具と目的に整合する判断をしている場合がある。本書の価値は、連続写真と抽出の解説によって、その一貫性を目に見えるものにした点にある。
第三は歴史的な価値である。本書は、日本のコーヒーに連なる異なる系譜に属する店の手順を保存している。指導者、焙煎士、上級バリスタにとって、この比較は、近年の流行、商業上の応用、より長い歩みを持つ技術的伝統を見分ける助けになる。
すべての手法を現代にも通用する推奨として受け入れる必要はない。何を管理し、何を前提とし、どの器具を改良し、所作と結果の関係を読者にどう説明していたのか。そうした判断の記録として読めばよい。
限界と今日的な有効性
刊行からすでに10年以上が経過している。新しいドリッパー、近年の研究、2012年以降に発展した競技上の実践は含まれていない。旭屋出版自身も、抽出を扱う別の書籍を2017年と2021年に刊行しており、この分野が進化し続けたことを示している。
また、日本語を読めない人にとって、とりわけ利用しやすい本とはいえない。視覚的な構成によって工程は追いやすいものの、電子版は固定レイアウトのEPUBである。BookLiveは、本文検索、ハイライト、文字だけの拡大に対応していないと注意書きを付けている。実質的には、図版中心の出版物を画面上に再現したものだ。
現在の本書の用途は、現代的なガイドの代わりになることではない。日本の幅広い実践例を保存し、一つの流派に還元せず比較できることにある。今日何をすべきかが問いであれば、最新情報と併読する必要がある。一方、2012年にこうした手法がどのように組み立てられ、伝えられていたかを問うなら、本書だけでも読むことができる。
版、ページ数、入手方法
二つの書誌事項について、資料間に相違がある。旭屋出版は128ページ、2012年7月1日発売としている。国立国会図書館、CiNii、紀伊國屋書店は124ページと記録し、刊行を8月としている。奥付を個人が転記した情報では初版発行日を8月5日としているが、現物では直接確認できていない。
慎重を期すなら、両方の異同を残すべきである。7月は商業上の発売日、8月は書誌上の発行日に当たる可能性がある。124ページと128ページの差は、表紙やページ番号のないページの数え方による可能性もあるが、確認できた組織資料のなかにその説明はない。
紀伊國屋の書誌ページでは、印刷版はすでに注文を受け付けていない。最もよく確認できる入手経路は、2023年3月に配信された電子版であり、BookLive、BOOK☆WALKER、コミックシーモアで販売されている。参照した資料からは、改訂された印刷版の第2版は確認できない。
こうした留保を踏まえて読めば、『ドリップコーヒーの最新技術』は今なお特異な位置を占めている。正しいレシピを一つに定めるのではなく、同じ問題に対する23通りのプロの回答を保存しているのである。